要旨：本稿は神尾の情報のなわ張り理論及びその理論を応用した隣接対に関する予測機能を紹介した上、現実に行われている日常会話において、神尾の隣接対に関する予測理論が成立するかどうかは実際の談話記録という客観的なデータに基づき、検証することを試みた。さらに、その総合的な正確率が低かった原因を分析した。
　　キーワード： 情報のなわ張り理論；隣接対；予測機能
　　【中图分类号】G642
　　基金项目：渭南师范学院2009年研究生专项科研项目（09YKZ041）
　　はじめに
　　神尾昭雄氏の情報のなわ張り理論は主としてある与えられた情報の持つなわ張り関係とそれを表現する文形との関連を扱う。従って、現実の状況下である情報に対してどのようななわ張り関係が成立するのかにより、異なった文形が用いられることを予測することが出来る。そのため、情報のなわ張り理論は、談話分析、特に会話分析において現実のデータに応用して、分析の効果が期待されよう。本稿では、このような情報のなわ張り理論の適用を会話分析の観点から考察して行きたい。
　　1 会話分析における情報のなわ張り理論の応用
　　1.1情報のなわ張りの概念
　　情報のなわ張りに属する情報とは、話してまたは聞き手が自己に帰属するものとみなす情報、すなわち自分のものとみなす情報である。「情報のなわ張り」の概念はいわば「所有権」を含むものであることが明らかとなろう。
　　1.2会話分析における情報のなわ張り理論の応用
　　1.2.1隣接対（adjacency pair）
　　会話の研究において重視すべきものとしてSchegloff and SackS（1973）によって注目された隣接対（adjacency pair）の概念がある。これは「状況の適切性」に基づいているわけで、聞き手が話し手の言ったことに答えるという形で発話をするときを指す。これは隣接対という。
　　1.2.2 隣接対に関する予測
　　神尾は情報のなわ張り理論を応用して、隣接対に関して興味ある予測を行うことが出来ると述べている。まず、神尾の予測分析をみよう。神尾の予測は次の表から始まる。
　　表1 隣接対における発話文形に対応する典型的な応答文形
　　発話の文形
　　回答の文形
　　直接形
　　間接ね形
　　直接ね形
　　直接ね形、だろう形
　　だろう形
　　直接ね形
　　だろう形
　　直接形
　　間接ね形
　　直接形
　　間接形
　　間接形
　　1.2.3神尾の隣接対の予測理論に対する検証
　　神尾のこの予測理論は実際成立するかどうかという疑問が浮かばれてくるのである。本稿を書くために、実際の談話記録という客観的なデータに基づき、隣接対に関して、検証することを試みた。検証に使った資料は日本の作家桂望実のドラマ『県庁の星』である。検証にする対象は一般に何らかの情報の伝達を行うために用いられるいわゆる平叙文であり、疑問文、感嘆文などは考慮しない。各文形の発話に対して、対応する応答文形が予測され、その予測の成立回数及び正確率を纏めると、次の表2の通りである。
　　表2.『県庁の星』における各文形の隣接対出現の頻度と予測成立回数
　　文形
　　回数
　　予測が成立回数
　　正確率（%）
　　直接形
　　45
　　6
　　13%
　　直接ね形
　　23
　　10
　　43.4%
　　だろう形
　　17
　　10
　　58.8%
　　だろう形
　　19
　　14
　　73.7%
　　間接ね形
　　8
　　5
　　62.5%
　　間接形
　　12
　　6
　　50%
　　総数
　　124
　　51
　　41%
　　上の表に示しているように、正確率が一番高いのは「だろう形」の対応する文形で、73.7%である。一番低いのは直接形（A）の対応する文形で、僅か13%であり、殆んどの場合は予測から外れていると言えよう。そして、総合的な正確率が41%で、意外に低かった。
　　2 神尾の隣接対に対する予測理論はなぜ正確率が低いか
　　なぜ、聞き手の応答文形は予測通りに行かないかを分析すると、次のような要因が考えられる。
　　まず、神尾が述べたように、「予測されるのは、あくまで、最も典型的な場合だけである」。例えば、二人とも花を見ているにしよう。一方が他方に「この花、きれいですね」と言ったら、これはBの場合であり、神尾の予測理論によれば、今度話し手になった聞き手の回答は「そうですね」という直接ね形が予測される。でも、これはあくまでも典型的な応答であるが、聞き手は「ええ」という直接形で応答する可能性もあるかもしれない。ということで、予測通りに応答してくれないケースが実に多い。
　　次に、正しく予測されるように、一つの前提条件が必要である。つまり、話し手は発話する時、話し手による聞き手の状態についての想定は正しい前提条件である。例えば、話し手は、ある情報に対して、自分だけが知っていると想定して、直接形が用いられたにしよう。実は聞き手もその情報がもう知っている、つまり話し手の想定は間違っている。話し手の発話を聞いた聞き手がその場合の応答する文形は予測通りの間接ねではなく、他の文形で応答することが想像されよう。
　　結び
　　以上の分析により、隣接対に関して、情報のなわ張り理論による最も典型的な予測が成り立つかどうかは、最初の話し手が聞き手の状態についての想定は非常に重要であることが分かるであろう。要するに、話し手の想定は正しければ、一般的に（Aの場合を除く）、応答の文形は予測通りに聞き手から返してくる。しかし、現実的に、話し手は自分の言おうとしていることが聞き手が知っているかどうかは常に分かるはずがない。という原因なので、神尾の情報なわ張り理論は現実の会話データに応用して、予測の正確率が低い。このように、現実に行われている会話において、話し手の想定が重要であるは言うまでもなく、聞き手側の判断、つまり、聞き手が話し手の発話を聞いて、話し手の伝えている情報に対する判断も考慮しなければならない。
　　参考文献
　　？1？[日]泉子·K·メイナード.会話分析？M？.东京：くろしお出版，1992
　　[2][日]神尾昭雄.情報のなわ張り理論――言語の機能的分析？M？.东京：大修館書店，1990
　　[3][日]神尾昭雄.続？情報のなわ張り理論？M？.东京：大修館書店，2002
　　[5][日] 益岡隆志.モダリティの文法？M？.东京：くろしお出版，1991
　　[6][日]金水敏，田窪行則.談話管理理論からみた日本語の指示詞？M？.东京：ひつじ書房，1990
　　[7]Schegloff，EmanuelandHarveySacks.1973.Openingupclosings.Semiotica
　　用例出典：
　　県庁の星』原作：桂望実 監督：西谷 弘 提供：アルバトロス株式会社