松本清張は日本だけでなく世界においても有名な推理小説の作家である。それ以前の推理?探偵小説がもっぱらトリック一辺倒であったのに対して、清張の推理小説は犯行動機重視への転換を図り、社会への鋭いまなざしとその本質を抉り取ろうとしている。その意味で、松本清張は日本の推理小説史に新しい時代を作ったと言える。　　松本清張の創作理念が「文学はすなわち暴露」であるので、彼の推理小説は批判の性格を持っているらしい。松本清張は数多くの作品の中で日本社会でよくみられる問題を批判している。それで、松本清張の推理小説は社会派推理小説と称されている。戦争、政界、経済界、法律界、また高度成長期に氾濫した拝金主義などはすべて松本清張の推理小説の批判の的となった。　　本論文は松本清張の推理小説における社会批判について論じたものである。本論文は五つの部分からなっている。第一の部分は松本清張の推理小説の主題と筆致について分析した。第二の部分では清張の推理小説における戦争への批判を詳しく論じた。第三の部分は松本清張のいくつかの推理小説への分析を通じて日本社会でよく見られる現実問題への批判の特色を論じた。この部分においては、政界、経済界、法律界という三つの分野を巡って論述を展開している。第四の部分は戦後の日本で一時的に氾濫していた拝金主義への批判を論じた。　　最後の第五の部分は松本清張の推理小説における社会批判的な性格の要因について分析を行った。それは個人の生活体験、戦後日本の混乱状態などと深く関わっている。また、松本清張の推理小説における社会批判的な性格は、文学においても、現実においても意義が深いものである。