[要 旨] 大正初年、日本文壇に「白樺派」文学が誕生し、盛んに発展してきた。白樺派の中心的な存在は武者小路実篤であった。武者小路実篤はトルストイ脱出し、何よりもまず自分の自由な解放を目指したのであったが、急速に社会へ眼を向け始め、人道主義への傾斜を示すことになった時もあった。武者小路実篤の人道主義は主に大正四年の劇曲『その妹』、大正五年の『ある青年の夢』、大正八年の『幸福者』などの文学作品の創作と理想社会建設運動ー「新しき村」の実践に現れている。武者小路実篤の人道主義には相当な合理性がある。しかし、武者小路実篤のような人道主義思想は戦闘的ではあっても、国家権力·資本主義·帝国主義への社会主義的な科学認識を持たないものであった。本試論では武者小路実篤の人道主義について論じる。
　　[キーワード] 白樺派 自己解放 人道主義
　　
　　大正初年、日本文壇に「白樺派」文学が誕生し、盛んに発展してきた。彼らは始終生命の無限の創造力を信じ、徹底的な自我尊重を主張する。「文壇の天窓を開け放って、爽やかな空気を入れ」、大正文学の幕を開けた。
　　 白樺派の中心的な存在は武者小路実篤であった。従来、武者小路実篤の人間的魅力については、その敬愛者や周りの人々によって、語られることが多かった。本稿は武者小路実篤の人道主義について論述する。人道主義を論じると共に、彼の自由解放思想を論じる必要があると思う。
　　武者小路実篤の数多くの作品の中では、自由解放思想の代表作として『友情』である。小説は杉子という女性を恋する二人の男同士（大宮と野島）の物語りを描いた。小説に見られるように、主人公大宮はすでに杉子に惹かれていたが、「友達の恋人」という心配で、大宮は杉子を拒み、一方で杉子に対して野島のことを賛美し、自分の情を捨てることによって、野島の恋を成就させることに努力した。そういう過程において、大宮はずっと「愛情」と「友情」との闘争が激しく展開された。大宮は道義思想から出発して、内心の「自己」を抑えようとしていたのである。それが実は武者小路実篤自身の青年期に経験した自己の渇望と道義心理との闘争である。『友情』という小説の上篇は大宮と野島が杉子への恋によって、それぞれ自己抑制の状態に陥ったというところで終わる。小説の下篇は杉子の大宮への告白の手紙から始まる。大宮は杉子の力強い求愛の下で、心にずっと抑えられた「自己解放」の考えが目覚めた。これこそ武者小路実篤が主張している「自己解放」なのである。
　　武者小路実篤はトルストイ脱出し、『友情』のような数多くの作品の中から主張する「自己解放」思想が見られる。武者小路実篤は何よりも自分の自由な解放を目指したのであったが、急速に社会へ眼を向け始め、人道主義への傾斜を示すことになった時もあった。武者小路実篤の人道主義は主に大正四年の劇曲『その妹』、大正五年の『ある青年の夢』、大正八年の『幸福者』などの文学作品の創作と理想社会建設運動ー「新しき村」の実践に現れている。
　　武者小路実篤の人道主義には相当な合理性がある。『その妹』とレーゼドラマ『或る青年の夢』では激しい反戦の意識が出ている。そして、戦争の根源は資本主義という国の内容と性質にあると考えていた。また、大正七年小さな理想の国ー新しき村の実践を決意するのである。これらは資本によってできあがった社会で資本主義制度を破って、金の流れから人間を救いだすのに非常に有意義な試みであって、それなりの進歩性と合理性を持っていた。
　　しかし、武者小路実篤のような人道主義思想は戦闘的ではあっても、国家権力·資本主義·帝国主義への社会主義的な科学認識を持たないものであった。「新しき村」という発想も資本主義の死物狂いの暴威の下で、ただユートピア思想にすぎなかった。また、このような人道主義の根底には「個人とか個性とかを通して、人類の意志を生かす」という基本的な考え方がある。自分の階級的特権をはなれて、一般民衆の側に立とうとする、自分の行動についての自負心がある。ところが、民衆の方の側では、そういう彼等の特異性を評価するより、やはり彼らを特権階級の一員としてからげに見る傾向が強い。白樺派の人道主義にはこのような短絡的なところもあるというのである。
　　武者小路実篤の人道主義思想は80歳を超えるまで、根本思想には、いささかの変化もないように思われる。武者小路実篤文学は精神が豊かであるが、この試論でただ人道主義の主題を取り上げて論述しただけである。ほかに研究しなければならないことがまだたくさんあるが、これからの研究課題にしたい。
　　作者紹介：
　　郝萍 女（1982年生まれ），2007年吉林大学日本文学専攻から卒業，東北電力大学日本語学部教師在任。